2023/12/12 11:28

「BIGオフクロース」の仕送り

オフクロースは、とある山村に住むおばあさんだった。
彼女は若いころに結婚して夫と一緒に農業を営んでいたが、子供には恵まれず、夫は早くに亡くなり一人で暮らしていた。
オフクロースは一人で畑を耕し、家畜を飼い、貧しいながらも平穏な暮らしを送っていた。

ある年のクリスマス、オフクロースは村の商店で宝くじを買った。
彼女は宝くじに興味がなかったが、商店の主人が

「今日は特別な日だから、一枚だけ買ってみなさい」

と勧めたので、気まぐれに買ったのだった。
その宝くじはなんと一等に当たり、オフクロースは一億円を手にした。


彼女は自分の暮らしに満足していたし、贅沢なものには興味がなかったのでこのお金をどう使おうかと悩んだ。
そこで彼女が思いついたのは、故郷を発った若者たちに仕送りをすることだった。
ただし、一年間しっかりと勉強や仕事などを頑張った「いい子」にしていた若者のもとにだけ。
彼女は若者たちの様子を村の人々から聞き、その情報をもとに判断したのだった。
仕送りの金額は、若者の状況に応じて変え、オフクロースという名前のサインだけを添えた。


オフクロースの仕送りは、若者たちにとって大きな助けとなった。
仕送りを受け取った若者たちは、学費や家賃や生活費に充てたり、夢を追うために使ったりした。
次第に仕送りを受け取らなかった村の若者たちは、自分の行いを反省したり、努力を重ねたりするようになった。


若者たちだけでなく大人もみな、オフクロースというおばあさんに感謝の気持ちを持ち始めるが、誰もオフクロースが誰なのか、どこに住んでいるのか、どうやって仕送りをしているのか、知る由もなかった。


オフクロースは、一億円を使い果たすまで、仕送りを続けた。
そして一億円を使い果たす頃、彼女はあの感動を味わいたい思いから宝くじやギャンブルにはまってしまう。

しかし、彼女はその度になぜか大金を手にしたのだった。

仕送りをすることに喜びを感じていた彼女はその大金をまた若者へ送り続けた。
彼女は故郷を発った若者たちの顔を知ることはほとんどなかったが、母親のように思い、彼らを見守り、励まし、応援していた。
彼女は彼らに会いたいと思ったこともあったが、それは叶わない夢だと分かっていた。



ある年の冬、オフクロースは風邪をひき、高熱を出し寝込んでしまった。
彼女は一人暮らしだったので、彼女のことを気遣うものはいなかった。
ただの風邪ではあったが高齢の彼女の体はどんどんと弱っていく。

死は近かった。

彼女は最期に、若者たちのことを思い浮かべた。
彼女は彼らに「ありがとう」と言いたかった。
彼女は彼らに「さようなら」と言いたかった。
彼女は彼らに「幸せになってね」と言いたかった。
彼女はそう思いながら、目を閉じた。



オフクロースの死は、しばらくしてから村の人々に知られた。
彼女の家に残されていた仕送りのための名簿や封筒、そして金庫の中のお金から村の人々は、オフクロースが仕送りをしていたことを知った。
彼女はどうやってそんなにお金を持っていたのか、なぜ仕送りをしていたのかまでは分からなかった。

オフクロースの死はやがて若者たちにも知られた。
そして若者たちはオフクロースが自分たちに仕送りをしていたことを知り、驚いた。
彼女はどうして自分たちを助けてくれたのか、どうして自分たちに名前を明かさなかったのか、理由は分からなかった。
しかし、彼女の愛情と仕送りに感謝した。
彼女は自分たちにとって、もう一人の「おふくろ」だったのだ。

村を出ていた若者たちはオフクロースに会いに故郷に帰り、彼女の墓に花を供えた。
彼女に「ありがとう」と言った。
彼女に「さようなら」と言った。
彼女に「幸せになったよ」と言った。